愛情はあたりまえ。鳥取が誇る谷口畜産の「万葉牛」。

鳥取を代表する黒毛和種「万葉牛」。

 

谷口畜産では、自社農場で子牛から肥育を手がけ、出荷まで行う一貫経営をしています。丁寧な管理環境を徹底しており、「あっさりと溶ける霜降り」として評価されるほど。

また、首都圏や関西圏でも非常に高い評価を得ており、これまでにも市場での品評会では多くの実績をあげています。

 

そして、今回は株式会社谷口畜産 代表取締役 谷口拓也さんにお話をお伺いしました。

 

愛情だけじゃない「おいしい」の理由。

 

後藤:餌は手作りなんですね。各畜産家さん、オリジナルで作るものなのでしょうか?

 

ーそうじゃないところの方が多いけど、うちでは自分たちで配合し、その日の餌はその日に作る。

 

実は、牛にとっても「菌活」が大切で、他ではあまり見ないけれども、ビフィズス菌や納豆菌も餌に混ぜている。また、自分たちで配合するからこそ、牛の状態や時期に合わせて微調整を行うことができる。そして、このベースとなる配合バランスはお父さんの代からなので、もう50年ほど変わっていない。

 

谷口畜産が考える「しつけ」。

 

後藤:餌をあげる際、たくさん食べられる子、比べてあまり食べられない子(取られてしまう)の差が出ないのかなと思ったのですが、なにか工夫されているのでしょうか?

 

ーいつでも餌が食べられる状態(常に餌が補充してある状態)が、牛にとってストレスフリーという考え方が多い。

 

けど、ここでは「しつけ」だと考えている。

 

しつけをしているので、餌の時間になると、牛たちはエサ台に対して一斉に並ぶ。そして、みんなが同時に食べ始めるから「食べられない」という牛はいない。

 

新しく来た仔牛にも1か月ほどで躾し直し、このタイミングで餌だよということを覚えさせる。好きな時に好きなように食べるのは、人間(農家)がコントロールできてないのと一緒。

 

結果として、「規則正しい生活」に繋がっていて、病気にもなりにくくなっている。



牛舎は料理屋さんの「バックヤード」みたいなもの。

 

 

ーうちは、管理を徹底しているという自負がある。

 

結局、牛の命を誰かの「美味しい」のために最終的にいただいている。だから、ここにいる間は常にいい環境で、病気になることなく健康に過ごしてほしい。

 

だからこそ、管理を徹底する。

牛舎を人に見せることは普段ないけれども、いつ来られても良いくらいに綺麗にしている。ここだけでなく、見えない倉庫も。

 

綺麗な環境で働くことで、従業員も牛たちにより一層優しく接することができると思っている。

 

そして、平均と比べると、一人当たりで見る牛の頭数は圧倒的に少ない。担当する牛が多すぎると、お世話が作業になってしまう。但馬牛は飼育が難しいと言われてきたが、手間をかけることでちゃんと育つことも分かり、これもまた自信に繋がった。

 

結果、みんなにとって良い環境になっている。

 

他にも、床(とこ)には納豆菌を撒いていて、これは外からは無駄とも言われている。けれども、菌を撒くことで、匂いを抑えることにも繋がり、堆肥が良くなって良い発酵にもなる。

 

日々の小さな積み重ね(手間)が、この牛舎を表している。



花房さんとの繋がり。

▶︎写真は株式会社はなふさの中山さん(左)と森さん(右)

 

後藤:万葉牛をつくるきっかけでもある「はなふさ」さん。はなふさでは、卸売から小売、食肉加工までを行なっていますが、はなふさと一緒に作り上げていくことはどのような意味を持つのでしょうか。

 

ー私たちの今までの卸先は市場が多く、売って終わりだった。そのため、買われた牛たちがどこに行き、どのように味わわれているのかが全く見えなかった。

 

しかし、こうやって「はなふさ」とタッグを組むことで、飲食店に直接卸すことが増えた。そうなると今までと違って、食べてもらった上での感想が聞けるようになった。また、自らもお店へ食べに行くことで、それぞれの調理方法に合うお肉はどういうものなのかという答え合わせもできるようになった。

 

実際の声を聞くことで、さらなる調整(レベルアップ)に大きく繋がる。

今の和牛の世界では、霜降りが入らないことは失敗とみなされるけれども、私たちはそこを目指している。なぜかというと、実際に食べるお客様がそれを必要だとしているから。

 

霜降りを入れないことを目指しているわけではなく、霜降りのイメージである「くどさ」を減らすこと。見た目だけで敬遠するお客様も増えているけれども、騙されたと思って食べてみてと勧めると「美味しい。ここのロースなら食べられる。」という声も聞けるようになった。

 

この繰り返しを行えることがとても良い関係だと思う。

 

自分の作りたいを理解されて、それに対する評価が合うのか

 

会社名:株式会社はなふさ

公式HP:https://hanafusa-meat.jp/

 

谷口畜産が考える、これからの和牛。

 

後藤:以前は「霜降り」に特化し、多くの賞を受賞されていた谷口さん。当時の世の中はそのようなお肉がベストだった。けど、ロースやサーロインが苦手という声が最近では多いことも実感し、今求められているものはなんだろう、と常に今の時代に「ベストなもの」を追求されているんだなと感じました。

 

こうして、万葉牛が評価されるようになりましたが、今後の展望はどのようなことを考えているのでしょうか。

 

ー大きく分けて、ふたつある。

 

ひとつは、本当に美味しい「ロース」「サーロイン」を広めること。ふたつ目は、畜産家さん、飲食店さん、みんなに利益が出る構造を作ること。

 

美味しいと言われる血統(遺伝)が少なくなっているのが現状。このような血統を残すには、私たちとはなふささんの関係性、お客様との繋がりが大切。

 

この繋がりがあるから、私たちは作りたいものを作れ、お客様は食べたいものを食べられる。

私は、これを「セミオーダー」と呼んでいる。

 

そして、お客様に理解され、きちんとした価格設定を行う。すなわち、私たちが提供するものが、高価格でもお客様に理解される品質・味わいであること。

 

このような環境を他の畜産家さんにもどんどん広げていきたい。そして、業界全体を盛り上げていきたい。そうすることで、本当に美味しいお肉はこれからも残り続けられるし、味わってもらい続けられる。

 

和牛は高級食材だから、みんなと一緒である必要もない。それぞれの「美味しい」を作り続けられる環境を知ることが、今後も必要とされるお肉だと思う。

 

「農家の味」を見た。

 

本当に綺麗だった牛舎。歩いていても牛舎特有の匂いが気にならないことに後から気づくほど。

牛たちの穏やかな顔。リラックスしていることが初見の私でも何となく感じられるほど。

 

霜降りのお肉は、6-7割が血統で味が決まるそう。そして、それ以外の部分の味の平均値は「何を食べきてきたか」であると言う谷口さん。すなわち、農家がどのように肥育してきたか。

 

終始、落ち着いたトーンでお話ししてくださった谷口さんから静かな情熱を感じた。

 

文 後藤 愛海

タグ

関連商品